物理特性と同位体組成に基づく沖縄トラフ南部の水塊のキャラクタリゼーション
- Keywords:
- Neodymium isotopes; Hydrogen isotopes; Oxygen isotopes; Kuroshio Current; Okinawa Trough; Ryukyu Islands; Northwestern Pacific.
琉球弧南部(与那国島沖,西表島沖,石垣島沖)の水塊構造を, 底質有孔虫のNd同位体組成(143Nd/144Nd比,εNd値で表す),海水の水素・酸素同位体組成(δD,δ18O値),物性(水温,塩分)を用いて明らかにした.なお,底質有孔虫のεNd値は,海底直上の海水のεNd値を代表するとされている.
沖縄トラフ側では、比較的低いεNd値を有する大陸・島嶼起源の物質の流入により,太平洋側に比べてεNd値が低い.沖縄トラフ内では、次のプロセスが海水のNd同位体の挙動を支配しており,特に与那国・西表両地域で影響が顕著である.(1) 表層水と亜表層水は、台湾の河川からの陸源性物質の流入と黒潮の蛇行に影響を受けている.(2)中層水は低εNd値で特徴付けられ,これは堆積物プルームとタービダイトフラックス起源の低εNd値によるものである.(3)底層水のεNd値は中層水と類似し,湧昇流による鉛直混合を示唆する.εNdプロファイルは太平洋側でより明瞭な深度変化を示す.高εNd値は表層水と亜表層水(水深300m以浅)を特徴づける,一方,低εNd値(–7.0まで減少)は,亜表層水〜中層水の核心部(水深400〜600m)に特有である.より深所では,εNd値は水深750m以下まで微増し(約–4.0に達する)、水深約2000mまでは一定である.それ以深の深層水ではεNd値がわずかに減少する.中層と底層水・深層水はδDとδ18Oの値が低いことで,より浅所の海水とは区別される.
本研究の成果は,琉球列島を含む北西太平洋の海洋環境の変遷を編むために重要であり,古気候・古海洋学の発展に大きく貢献すると期待される.