日本語要旨

バングラデシュにおける山地、河川、沿岸域における地形プロセスとコネクティビティ

急峻な山地や平坦な低地を含む流域スケールの地表プロセスを理解する上で地形学的な知見は重要であり、とくに中・下流域に人口が密集しているような場合は、自然災害による危険度評価といった面でも重要となる。しかし、バングラデシュのような南アジアの一部の地域では、地形学や関連分野の総括的な研究があまり行われていないため、地表プロセスに関する知識は相対的に限られている。本稿では、災害も起こりやすいデルタ地帯を含むガンジス・ブラフマプトラ・メグナ川(GBM)流域の地形プロセスについて、とくに河川プロセスを中心として概観する。この地域はヒマラヤ山脈を含む流域の下流に位置し、上流域の地形変動、水文、土砂フラックスと高い相互結合性(コネクティビティ)をもっている。そこで、侵食の生じる上流域と、堆積が卓越する下流域とをつなぐ地形プロセスを明らかにするために、山地斜面、沖積平野、沿岸域といった異なる地形環境における先行研究をレビューした。その結果、バングラデシュにおける地形研究の多くは、上流域の山地における地すべりの分布とその発生しやすさの推定、中流域の河川における河道の変動、河岸侵食と堆積、下流域の平野部における流域形態や地形区分、沿岸における海岸侵食や海岸線の変動について、それぞれ小規模なスケールで研究されていることが分かった。次に、GBM流域の河川システムの動態と土砂移動に着目し、上流の河川・堆積プロセスが、ヒマラヤからベンガル湾までの地形的なコネクティビティに与える影響を論じる。しかし、GBM上流域の河川動態や土砂移動に関する研究はいくつかあるものの、下流域のバングラデシュにおける河川プロセスについては、現地調査に基づく研究が限られており、充分に理解されているとは言えない。したがって、GBM流域全体の複雑な地形条件をよりよく理解し、既存の研究を強化するために、バングラデシュにおける地形研究のさらなる展開が期待される。また、本稿によるレビューは、GBM流域の河川地形プロセスに関する全体的な理解を深め、地域の政策立案者に対しても、国境を越えた河川流域の管理政策の重要性について示唆をもたらすものである。