日本語要旨

IODP掘削地点C0002のカッティングス試料を用いた南海トラフ付加体内での摩擦特性の深さプロファイル

南海トラフの地震発生メカニズムを解明するために,2007年から2019年にかけて南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)が実施された。当該地域の摩擦特性の先行研究では,同プロジェクトで採取されたコア試料が用いられているが,これらのサンプルはある特定の深さに限定されている。本研究では,掘削地点C0002の海底下875〜3262 mから連続的に採取されたカッティングス試料に対し50 mごとに合計46試料の摩擦実験を行い,南海トラフ付加体内での摩擦特性の深さプロファイルを作成した。

摩擦実験は広島大学設置の二軸摩擦試験機を用い,静水圧を想定した現位置での有効垂直応力を設定して,海水を模擬した0.5 mol/Lの塩化ナトリウム溶液を用いた含水条件下で行った。カッティングス試料はすりつぶした後,粒径を106 μm以下に揃えて模擬断層ガウジを作成した。すべり速度は3 μm/sで定常状態に達した後,0.3,3,33 μm/sの間で段階的に変化させる速度急変実験を行った。これらの実験により,定常状態での摩擦係数,摩擦の速度依存性(a-b)および臨界すべり距離(Dc)を調べた。また,実験結果をIODPデータリポートで報告されている粘土鉱物の含有量と比較し,摩擦特性と粘土鉱物の関連性を検証した。

摩擦係数は0.45 ≤ μ ≤ 0.60の範囲であり,深くなるにつれやや上昇する傾向が見られた。スメクタイトの含有量は深さとともに減少しているため,摩擦係数の深さ依存性はスメクタイトからイライトへの相転移に関係していると考えられる。摩擦の速度依存性(a-b)は0.001 ≤ a-b ≤ 0.006の範囲であり,速度強化の性質を示した。臨界すべり距離(Dc)は0.5〜123 μmであり,スメクタイトに富む試料で比較的大きな値を示した。これらの速度・状態摩擦パラメータの変化は,深さによる鉱物学的な変化や圧密の変化と関連していると考えられる。掘削地点C0002で採取されたすべてのカッティング試料は速度強化の安定すべりの性質を示しているが,深度とともにa-bがわずかに減少していることから,より深部では速度弱化へ遷移することが考えられ,これは南海トラフ付加体深部におけるスロー地震の発生に関係している可能性がある。