日本語要旨

2014年タイ地震(Mw 6.2)における共役断層系の複雑な破壊過程

2014年5月5日にタイ北部で発生した地震(2014年タイ地震;Mw 6.2)はPhayao断層帯の複数の断層が接合する領域で発生し、余震は共役な二つの断層線に沿って発生している。二つの断層が鋭角に交わっており、かつ、従来の波形解析手法では詳細な震源過程の推定が困難なため、地震時にどの断層が破壊したのかについては余震活動や現地調査の結果を基に議論が行われてきた。本研究では、モデリング誤差による影響を軽減し、かつ、断層形状の情報を含む震源メカニズム解分布と震源過程を同時推定できるポテンシー密度テンソルインバージョンを遠地実体波P波に適用して、2014年タイ地震の破壊過程と断層形状の推定を試みた。同手法がM6クラスに適用されるのは本研究が初めてであるため、数値実験により、同手法がM6クラスの地震に適用可能であるか否かについて確認した。その結果、複数の入力モデルを同手法で適切に再現できることを確認した。次に、実データに適用したところ、2つの断層面で構成される共役横ずれ断層系に沿って、2つの破壊エピソードからなる破壊伝播過程が得られた。最初のエピソードは震源から開始し、南北方向の断層面に沿って南に伝播した。もう一つのエピソードは震源から北に約5kmの地点で開始し、東西方向の断層面に沿って西側に伝播し、震源域の西端付近で停止した。得られたP軸の分布は二つのピークを持ち、それぞれのピークが、南北方向と東西方向の断層面での地震時すべりに対応する。従来の研究では、南北方向の断層面のみ本震時に破壊したと考えられてきたが、本研究によって、余震分布に沿って、共役断層を構成する二つの断層が本震時に破壊したことが明らかになった。本研究は,我々が開発したポテンシー密度テンソルインバージョンが,M6クラスの中規模の地震に適用可能であることを示すとともに,この規模の地震解析においても、幾何学的な複雑性に支配された破壊伝播過程を求めることができることを示すものである。