日本語要旨

高圧鉱物の逆相転移プロセス:微惑星衝突現象と地球深部ダイヤモンド輸送過程への応用

衝撃変成隕石やダイヤモンド包有物などからは様々な高圧鉱物が発見されているが、それらが地表に至る際のP-T-t履歴によっては、高圧相が急冷されずに低圧相へ逆相転移したり、あるいは非晶質化してしまったりしている場合も多い。このような逆相転移のプロセスやカイネティクスが実験的に明らかになれば、隕石母天体の衝突やマントル対流、深部マグマ噴火など多様な時間スケールをもつ地球惑星内部の動的現象を読み解くことができる。本研究では、衝撃変成隕石や地球深部ダイヤモンド中に発見されているリングウッダイト、ブリッジマナイトおよびリングンナイトに着目し、それらの逆相転移プロセスをマルチアンビル型高圧装置と放射光X線を用いて最短10秒毎の時分割測定で、その場観察した。これら3つの高圧鉱物の逆相転移はすべて多形反応にもかかわらず、そのプロセスは三者三様で興味深い。リングウッダイトは約0.5〜8GPaにおいて粒界核生成と界面律速成長で低圧相のオリビンに逆相転移する。ブリッジマナイトは約1〜4GPaにおいていったん非晶質化してから低圧相の斜方輝石が結晶化する。その非晶質領域は圧力とともに狭くなり8GPaでは高圧単斜輝石に直接逆相転移する。リングンナイトでも1.5GPaにおいてまず非晶質化が起こったが、完全に非晶質化する前に低圧相斜長石の結晶化が始まった。衝撃変成隕石で発見されているリングウッダイトの多様な産状は、本研究で制約した逆相転移の成長カイネティクスで説明可能である。一方で、地球深部ダイヤモンドに発見された含水リングウッダイトについては、残留応力が無ければ地表まで生き残ることは困難である。また本研究の結果からブリッジマナイトは衝撃圧縮後の焼きなまし過程で非晶質化は避けられず、地球深部ダイヤモンドの輸送過程では低圧相斜方輝石への逆相転移も避けられないことが示唆される。しかし少なくとも前者では結晶質のブリッジマナイトが複数の衝撃変成隕石から発見されており、より短時間スケールでカイネティクスを直接観察することが必要である。