福島県帰還困難区域での観測で発見された不溶性放射性微粒子の大気再浮遊
- Keywords:
- Resuspension, Radiocesium, Water-insoluble radiocesium-bearing microparticles (CsMPs), Fukushima accident, Aerosol
東京電力福島第一原子力発電所事故によって環境中に放出された放射性セシウムの中でも、不溶性セシウム微粒子(CsMP、不溶性放射性微粒子、いわゆるセシウムボールなど)は、一粒子あたりの放射能が大きく放射線影響が懸念される。本研究では、福島県の帰還困難区域内で無人(自動)サンプリングされた大気粒子試料から、CsMPを検出・単離することにより、事故直後にCsMPが土壌等に沈着したあと、現在でも自然に再浮遊することにより大気中に存在しうることを初めて示した。
福島第一原子力発電所から約25 kmの未除染の地点で、2015年、2016年、2018年および2019年に、ハイボリュームエアサンプラーにより大気粒子を捕集した計165個の石英繊維フィルター試料を対象に、イメージングプレート観察を行い放射能の高い点を検出した。それらから光学顕微鏡下で比放射能の高い粒子を単離することに成功し、合計15個の粒子について走査型電子顕微鏡観察およびエネルギー分散型X線分光法により、大きさ、形状、元素組成を特定した。単離された粒子の粒径は平均1.8±0.5μmのほぼ球形で、137Cs放射能は0.35 ± 0.23 Bq/granuleであった。形状および元素組成から、これらがいわゆるtype-AのCsMPであると同定できた。サンプリング地点周囲の土壌からも、同様のCsMPが多く検出された。本研究でのサンプリングは、周囲に人間活動がほとんどない地点で無人(自動)運転により行われており、人間活動による土壌からの飛散は考えにくい。また、観測地点で土壌粒子の風による飛散が多くおこる春季に、CsMPが検出される頻度が高かった。これらの結果から、頻度は低いものの、土壌等に沈着したCsMPが自然条件下で大気中に再浮遊することが明らかになった.また、検出された時の大気137Cs放射能に占める割合が23.9±15.3%と無視できない大きさであることから、その環境影響について考慮する必要があることが示された。なお、2016年、2018年および2019年のCsMP検出個数は同じであり、明確な減少トレンドは見られていない。