エンスタタイト・コンドライト中のオルダマイトからのメッセージ
- Keywords:
- Enstatite chondrite, Oldhamite, Rare-earth-elements, Redox conditions, Condensation, Vaporization
エンスタタイト・コンドライトは、隕石の中で最も還元的環境下で形成されたものであるが、地球と酸素などの同位体組成が類似する点で注目されている隕石である。本研究ではこれらの隕石の形成過程を明らかにするために、エンスタタイト・コンドライト13試料中のオルダマイト(CaS)をICP-MSで分析した。オルダマイトは還元環境を反映する鉱物であり、また希土類元素(REE)の主要含有相でもある。エンスタタイト・コンドライトはEH, ELグループに区分される。今回の研究によれば、EHではREEの存在度パターンは熱変成度(岩石学的タイプ)に依存する。特に、変成度の低いもの(EH3)では、EuとYbに正の異常が認められる特徴的なパターンを示す。このようなパターンは炭素質コンドライト中の難揮発性包有物にも広く認められるが、太陽系存在度を反映するガスから最初期成分が凝縮し、その成分が取り除かれた後に続く凝縮過程により形成されたものであるとされている。ガスからの最初期の凝縮成分はマトリックス中に含まれている可能性が高いが、含有相は不明である。熱変成作用を受けたもの(EH5)では、REEのパターンはフラットで、CIコンドライトの存在度に対して80倍程度濃集している。これらの特徴は、母天体内での熱変成作用に伴うREEの再分配によるものと考えられる。一方、ELグループ中のオルダマイトのREEパターンは岩石学的タイプに関わらず、Euの負の異常を示すものの、REEはCIコンドライトの100倍程度濃集している。これはELの構成物質が母天体集積以前に溶融過程を経ていることを反映している。しかしながら、これらの事象に関する年代は明らかではない。