経験的な滑り弱化摩擦を考慮した厚みのある断層帯での摩擦発熱:深部断層掘削での温度測定による滑りパラメータ推定への示唆
- Keywords:
- Heat conduction, Frictional heat, Temperature anomaly, Deep fault drilling, Analytical solution
地震時に開放される歪エネルギーは、一部は地震波として放出され、その他は断層における散逸として消費される。散逸の大部分は摩擦発熱となるため、発熱量は散逸過程および地震のエネルギーを理解する上で重要である。そのため、しばしば地震直後に断層掘削を実施し、断層近傍での温度異常から摩擦発熱の調査が試みられてきた。既存の掘削研究では、温度異常から発熱量を推定する際、均質な無限媒質中に平面熱源が瞬間的に貫入した問題の解析解(ソース解)が近似解として用いられている。しかし、天然断層は有限の厚みを持っており、滑りに伴ってその摩擦強度を時間変化させていく。地震時の典型的な滑り速度では、摩擦強度は滑り距離に対して指数関数的に減衰することが経験的に知られる。これらを考慮した問題の解析解(厚い解)とソース解との近似誤差について、定量的な評価はなされておらず、既存の掘削研究においてソース解を近似解として用いることの妥当性は不明であった。
本研究では、経験的な滑り弱化を考慮した厚い解とソース解との比較から、既存の断層掘削で推定された滑りパラメータの妥当性を検討した。まずラプラス変換を用いて厚い解を導出し、先行研究の解析解および数値解と比較して解の妥当性を確認した。断層帯の厚みに対応する無次元量をゼロに近づけると、厚い解は平面断層が滑り弱化する問題の解析解(平面解)に漸近することがわかった。さらに滑り継続時間に対応する無次元量をゼロに近づけると、平面解はソース解で近似できることがわかった。既存の掘削研究での条件におけるそれぞれの近似誤差は1%未満であったことから、報告されている滑りパラメータは妥当であると判断される。また近似誤差が1%を超える場合、剪断帯が極端に厚いか温度測定範囲が極端に広い必要があるため、将来実施予定の掘削を含め、多くの断層掘削において、ソース解を用いて滑りパラメータを推定することは妥当であることが示唆された。