日本語要旨

四国海盆の最終拡大期における背弧海盆下部地殻と上部マントルの地球化学的特徴:マドメガムリオンを例として

本論文は、背弧海盆の最終拡大期におけるマグマシステムやテクトニクスの実態を明らかにすべく実施した、研究成果をまとめたものである。本研究では、フィリピン海北部にある、現在は活動を停止している四国海盆で発見された海洋コアコンプレックスであるマドメガムリオンを対象とし、白鳳丸を用いたKH-18-2次航海、よこすか/しんかい6500を用いたYK18-07、YK19-04S、YK20-18S次航海で採取されたドレライト、オキサイドガブロ、ガブロ、カンラン石ガブロ、ダナイト、カンラン岩の全岩化学組成・鉱物化学組成と共に鉱物の鉛同位体分析を実施した。その結果、上記の火成岩やカンラン岩の化学組成は、低速から超低速中央海嶺で採取される同種の岩石の化学組成に近いことが明らかになった。マドメガムリオンを構成する下部地殻やマントル物質がデタッチメント断層を介して海底に露出した時期は、四国海盆の最終拡大期に対応しており、マグマの生成や注入は抑制されて間欠的であったと考えられる。これが原因となって、鉄に富んだ玄武岩質マグマが形成―オキサイドガブロを代表する分化した岩石の形成に繋がったと推察される。一方で、オキサイドガブロに含まれるマグマ起源の褐色角閃石の鉛同位体組成は、中央海嶺でマグマを供給する枯渇マントル(DMM)の組成に一致した。そこで、四国海盆の最終拡大期に存在していたマグマ中の水(現在は褐色角閃石中に残される)はDMM起源であり、沈み込むスラブからの水や堆積物の寄与はなかったことが明らかになった。これは、四国海盆の最終拡大期には沈み込むスラブと背弧海盆の拡大軸が組成的に干渉しないほど離れていたことを示唆する。マドメガムリオンが定置を完了して四国海盆の拡大が終了した後には、ドレライトダイクが貫入してきた。その起源となるマグマは、紀南海山列をつくるような残留マントル上昇により形成されたと考えられる。