海上保安庁が運用するGNSS-A海底測地観測網SGO-A の地殻変動検出能力
- Keywords:
- GNSS-A, SGO-A, Seafloor geodetic observation, Earthquake detection limit, SSE detection limit
GNSS-A技術は,GNSSと音響測距を組み合わせることで海底地殻変動をセンチメートルレベルの測位精度で検出できる観測手法である.海上保安庁が運用するGNSS-Aを用いた海底地殻変動観測網SGO-Aは,これまで,2011年東北地震とその後の粘弾性緩和過程,プレート間固着,浅部スロースリップイベント(SSE)などの固体地球科学における重要な検出結果を示した.一方でその観測限界は示されておらず,事前にどのような現象が観測可能であるかが不明であった.他の観測ネットワークとの比較,イベント発生時の緊急対応の要否,観測点網の拡張を考えるためには検出能力を正しく理解する必要がある.そこで,想定されるノイズを含んだ各点で得られるGNSS-A時系列で,どの程度の地殻変動の信号まで検出可能であるか,統計的検討と数値的検討を行った.ここでは,(1) 安定した地殻変動速度,(2) 一時的な時間変化イベント(地震やSSE),(3) これらの組み合わせ,がそれぞれ含まれる場合を調査した.その際,現在の船舶を使用したGNSS-A(観測頻度:4-6回/年,測位精度:1.5 cm以上)のみならず,現在のGEONETにおけるGNSS観測(観測頻度:365回/年,測位精度:0.5 cm以下)のような高頻度・高精度の場合まで検討した.現在のSGO-Aの各点における検出能力は図の通りである.くわえて,検討された各点での検出能力を考慮して,現在のSGO-A観測点網でのイベント検出範囲を数値的に導出した.得られた結果は,各点に対し半径約30 km以内で1.0 m未満のすべり量を持つイベントを検出できることを示した.また,南海トラフ沿いでは,沿岸から100 kmを超える範囲の約1/3で発生するイベントが陸域のGNSS観測では検出できず,SGO-Aによってのみ検出できることも示した.