淡水湖の表層水塊から補酵素F430を初めて検出:バイオマーカーと遺伝子解析によるメタン生成過程の探索
- Keywords:
- Planktonic methanogen, Coenzyme F430, mcrA, Lake Suwa, Surface hydrosphere
自然界で放出されるメタンの約7割は「メタン生成アーキア」と呼ばれる微生物が嫌気環境下で生産している.一方で,好気環境下でのメタン濃度の極大が報告されており,この現象は「メタンパラドックス」と呼ばれている.近年では,シアノバクテリアとメタン生成アーキアとの共生が提唱されているが,その全貌は未だ謎に包まれている.これまでの研究では,rRNAやmcrAなどの遺伝子解析による手法が主流であったが,メタン生成アーキアの存在量やメタン生成活性といった定量的な評価は困難であった.この問題を解決する手法として,メタン生成アーキア特有のバイオマーカーである補酵素F430(以下F430)の高感度分析法がある.F430はメタン生成に直接関与する化合物であり,化学的に不安定なため,環境中に放出されると速やかに分解または異性化する性質がある.そのため,環境試料から異性化前のF430を正確に分析することにより,あらゆる環境中に生きたメタン生成アーキアを定量的に評価することが可能となる.
本研究では,水塊中のシアノバクテリアとメタン生成アーキアの関係性を明らかにするために,諏訪湖で発生するシアノバクテリアブルームについて,遺伝子解析と共にF430分析を行った.シアノバクテリア試料からは有意な濃度のF430を初めて検出した(6.8-35×102 femto mol g-wet-1).異性化したF430の比率が低いことから,諏訪湖の表層水には高い活性を持つメタン生成アーキアが存在することが示唆された.遺伝子解析の結果から,表層の微生物相と底生堆積物との間では微生物相が大きく異なっており,シアノバクテリア死滅後に底生堆積物中で速やかに分解されていることが示唆された.本研究では,遺伝子解析による手法とバイオマーカー分析による手法を組み合わせることにより,定量的・定性的な二方面による評価が可能となった.これらの手法を適用することにより,シアノバクテリアとメタン生成アーキアによる共生関係について,さらなる知見が得られることが期待される.