日本語要旨

前期-中期更新世境界と酸素同位体比ステージ19のレビュー

2020年1月17日,千葉セクションにおいてチバニアン階と中期更新統の基底を定義するGlobal Boundary Stratotype Section and Point(GSSP)が批准された.これにより1973年に始まった国際第四紀学連合による一連のプロセスが完了したが,中期更新世という用語はすでに1860年代から使われていた.千葉セクションGSSPは,酸素同位体ステージ(MIS)19c上限の直下に位置し,天文年代は774.1kaとなる.千葉セクションにおけるMatuyama–Brunhes(M–B)境界の層位はGSSPの1.1m上にあり,前期–中期更新世境界の“primary guide”となった.また,M–B境界は,“Early–Middle Pleistocene transition”に位置しており,古くより中期更新世の基底を示すものとされてきた.MIS19 は,離心率が小さい期間中において,地軸傾斜角変動サイクルによって引き起こされた.MIS19には歳差運動の極小に伴う2つの日射量ピークが存在し,その期間は約28〜33 kyrである.MIS19cは791~787.5 ka頃に始まり,8~12.5 kyrの間氷期最盛期を含め,774~777 ka頃の“glacial inception”により終了した.この氷期の開始は,前期–中期更新世境界付近に一連の気候層序学的なシグナルを残した.MIS19b-aには,しばしば急激な気候変動で区切られる,酸素同位体データ上で長方形の波形をもつ3つまたは4つの亜間氷期が含まれる.亜間氷期に挟まれる亜氷期は,“glacial inception”を含めて,北大西洋における氷床崩壊に伴う大西洋子午面循環(AMOC)の停止に関連しており,これはバイポーラーシーソーによって位相差をもって南極の温暖化イベントも引き起こした.MIS19b-aにおけるアジア太平洋と北大西洋・地中海域で同調した亜間氷期–亜氷期の振動は,AMOCに起因する熱帯収束帯の移動と赤道域の日射によるペーシングを示唆している.また,この亜間氷期–亜氷期の振動には,高緯度のテレコネクションも重要な役割を果たしている可能性があるが,低緯度モンスーンのダイナミクスが地域的な反応を増幅させていると考えられる.