東ネパールのシワリク層群における河川堆積物の堆積相解析:同時期のヒマラヤのテクトニクス,気候変動と海水準変動の関係の解読
- Keywords:
- Miocene, Siwaliks, Facies, Fluvial, Sea-level change, Eastern Nepal Himalaya
シワリク層群はヒマラヤ山脈の南部に広がる,主に河川成の中新統~更新統である.その分布はパキスタンから東インドまで及び,ヒマラヤ山脈の隆起によって生産された砕屑物によって構成される前縁盆地堆積物と考えられている.この堆積物の堆積システムは地域によって異なり,それぞれの地域におけるテクトニクスや気候変動の影響を記録している.そこで,東ネパールのMuskar Khola川に露出するシワリク層群(中部中新統~鮮新統)において河川システムを制御している要素を堆積学的検討によって解明することを試みた.野外で観察される岩相の変化に基づいて,以下の5つの堆積相,細粒な蛇行河川堆積物(FA1),洪水流が卓越する氾濫原堆積物 (FA2),砂質蛇行河川堆積物 (FA3) ,anastomosing river 堆積物 (FA4) ,土石流が卓越する礫質網状河川堆積物 (FA5),を識別した.先行研究によって示されている古地磁気層序に基づくと,約10.5 Ma, 10.0 Ma, 5.9 Ma, 3.5 Maにおいて,堆積システムに大きな変化があったと推測される.これらは,海水準変動や気候変化,供給源となるヒマラヤ山脈のテクトニクスや堆積盆地そのものの変動に起因すると考えられる.中でも,約10.5 Ma 前後に堆積した,層厚80 mに及ぶ角礫岩相 (FA2) は,その礫のほとんどが自然堤防や氾濫原の堆積物の角礫からなるため,当時の河岸段丘周辺の崩壊や浸食によって形成されたと推定される.そのため,東ネパールではこの時期にモンスーンによる降水量の増加があったと推定される.また,ネパールの西部のKarnali 川から,中央部のSurai Khola川,東部の本研究地域までの東西約700 kmにおいてシワリク層群の堆積システムの対比を試みた.その結果,中新世後期における堆積システムの変遷は地域に関わらず類似しているものの,その変遷時期は大きく異なっていることが分かった.ネパール西部・中央部と東部におけるテクトニクスの違いが,非同期的な堆積盆の沈降を招き,それぞれの地域での堆積環境の違いを引き起こしたと考えられる.