日本語要旨

欧州と日本における電離圏変動の複合的研究: 観測、比較解析、及びモデルと観測機器の妥当性の検証

この論文は、2017年9月5-6日に欧州と日本において実施された非干渉散乱レーダーと人工衛星による電離圏同時観測キャンペーンの結果を示す。このキャンペーンでは、ウクライナのハフキフと日本の信楽に設置された非干渉散乱レーダーおよび電離圏高度を飛翔する人工衛星による観測結果を、経験モデルである国際標準電離圏モデル(International Reference Ionosphere;IRI)及び物理モデルであるFLIP(Field Line Interhemispheric Plasma)モデルと比較し、電離圏F2層の最大電子密度とその高度、F2層上部における電子密度、電子・イオン温度について調べた。この結果、F層最大電子密度高度の日変化は、ハルキフと信楽において類似した変動を示すが、IRIモデルでは、この日変化が十分には再現されないことが明らかになった。本研究では、中緯度においてSwarm衛星によって観測された電子密度を、初めて非干渉散乱レーダーによる観測と直接比較し、Swarm衛星観測データが高い品質を持つことを確認した。さらに、F2層上部においてDMSP(Defense Meteorological Satellite Program)衛星で観測された電子温度は、FLIPモデルによって計算された電子温度よりも高いという結果が得られた。FLIPモデルにより電子温度を計算するためには、中性大気密度の入力が必要であるため、中性大気の経験モデルであるNRLMSISE-00モデルの値を入力として用いているが、NRLMSISE-00モデルから得られる水素原子密度を2倍にして計算したところ、DMSP衛星で観測された電子温度とよく一致した。この結果は、NRLMSISE-00モデルの水素原子密度は、アジア域においては少なくとも2倍増加させる必要があることを示している。また、この観測キャンペーン期間中、欧州と日本とで、伝搬する電離圏電子密度変動が観測された。その変動の周期は、欧州では約50分、日本では約80分であり、電離圏変動に地域による違いも見られた。