日本語要旨

熱帯インド洋における年間波エネルギーフラックスの鉛直構造

総観規模の大気海洋波動によるエネルギー伝達経路を世界地図上に初めて同定することは、気候学的にも地球流体力学的にも意義のある課題である。従来の診断スキームでは熱帯と中緯度を連続して取り扱うことができなかったため、この課題は未解決であった。最近の理論研究により、すべての緯度帯についてシームレスな診断スキームが開発された。これは重力波と惑星波が混在する状況でも群速度ベクトルの分布を同定できるという利点がある。本研究では、この新しいスキームを用いて、インド洋で赤道ケルビン波とロスビー波によるエネルギーフラックスの鉛直的な伝達経路について、初めての解析を行った。各実験結果に対して、この拡張された診断スキームにより、深海まで到達する東向きのエネルギーフラックスが明らかになり、これがモンスーン風による赤道ケルビン波の励起に関連して、年に4回起きていることが見出された。赤道海洋表層での東向きのエネルギーフラックスは、2月と5月の両方で強く、それぞれ、湧昇と沈降の赤道ケルビン波に関連していることが明らかになった。特に、下向きのエネルギーフラックスはベンガル湾南部(3°〜5°N、 90°E)で最も深いシグナルが現れることがわかった。この下向きのフラックスは、赤道外のロスビー波によって年に4回起きて、11月から12月の間に振幅が最大になった。アラビア海の南西風は、中深度で赤道ケルビン波による東向きのエネルギーフラックスを強め、8月に振幅が最大になった。これは海洋表層での赤道ケルビン波によるエネルギーフラックスが5月にピークに達することと対照的である。これらの中深度の赤道ケルビン波パケットは、インド洋の東岸境界に到着した後、両極方向に分岐して、ベンガル湾南部で11月と12月に下向きのエネルギーフラックスを引き起こすことがわかった。中深度の東向きのエネルギーフラックスのピークは海洋表層での東向きのエネルギーフラックスより3か月遅れており、波エネルギーは下向きに伝わっていることがわかった。