ハロイサイトを含む地すべり面の鉱物学的特徴と物理化学的性質:2018年北海道胆振東部地震に伴う斜面崩壊の例
- Keywords:
- 2018 Hokkaido Eastern Iburi earthquake, shallow landslide, halloysite, zeta potential
2018年9月6日に北海道南西部を震源とする北海道胆振東部地震(Mw = 6.7)が発生した。最大震度7を記録した震源付近の丘陵地では,強い揺れによって斜面が大規模に崩壊し大きな被害がもたらされた。その後の調査研究により,斜面崩壊の多くが火山灰層(樽前d)の最下部をすべり面として発生したことが確認され,またそのすべり面には特異的にハロイサイト粘土鉱物が形成されていることが明らかとなっている。本研究では,すべり面試料の鉱物学的,物理化学的分析を行うことにより,斜面崩壊のメカニズムについて検討した。
分析の結果,すべり面には不定形~球形を呈するハロイサイト粘土鉱物が50%程度含まれていることが分かった。またガス・水蒸気吸着実験により,このようなハロイサイトは一般にみられるチューブ状ハロイサイトに比べてメソポア (直径2~50 nm)に富み高い吸水性・保水性を示すことが分かった。この性質が降雨後も土砂を長期間にわたって高含水状態に保持していた可能性がある。
またすべり面試料の粘土画分についてゼータ電位測定を行ったところ,粒子表面は広いpH領域において負電荷を帯びており(等電点はpH<2),電位の絶対値はpHの上昇あるいはイオン強度の低下にともなって次第に上昇することが分かった。このことは,地震発生前の降雨によってハロイサイト粒子のゼータ電位の絶対値が上昇し,粒子分散性(粒子間反発力)が高まっていたことを示唆している。粒子分散性の上昇は土壌粘着力の低下をもたらすと考えられるため,今回のケースでは火山灰土壌最下層において局所的な強度低下を引き起こし崩壊に至った可能性がある。