日本語要旨

日本海溝南部における過去3000年間の古津波履歴

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震津波以後,日本海溝南部地域の応力変化が地震学的に指摘されており,日本海溝南部での地震発生が懸念されている.一方,日本海溝南部の古津波イベントの研究は,沿岸部の都市化に伴い調査適地が限られているため,堆積物の記録に乏しい.そのため,日本海溝南部を波源とする古津波履歴は未解明の部分が多く,日本海溝中部や北部と比べて遅れているのが現状である.

千葉県銚子市の小畑池は,海岸から500 m内陸の高台(海抜11 m)に位置する日本海溝南部に面した沿岸湖沼の一つである.この小畑池における先行研究では,歴史的・地質学的調査により,西暦1677年の延宝房総沖地震津波によって形成された堆積物が検出されている.そこで,本研究では日本海溝南部の古津波履歴を明らかにするため,小畑池において池底の堆積物の掘削調査を実施し,採取した堆積物コアについて各種分析を行った.その結果,過去3000年間の地層記録内で3層のイベント砂層が検出された.鉱物学的組成,珪藻群集解析および地球化学的指標を用いた分析により,これらの堆積学的イベントは過去の津波と関連していることが明らかになった.最も新しいイベントは,先行研究によって報告された1677年延宝津波によるものである.さらに,14C年代測定の結果はより古い2つの砂層が西暦896~1445年と紀元前488年~西暦215年に銚子地域を襲った大津波に関連していることを示した.

これらの津波堆積物の年代と,日本海溝中部の既知の津波堆積物の年代との比較を行った結果,後者の年代のいくつかと重複が認められた.これは,日本海溝南部と中部の地震・津波は比較的近い時間間隔で発生していた可能性を示している.しかし,今回得られた14C年代の幅は大きく,両地域の地震・津波の時間的関係を明らかにするためには,さらなる調査が必要である.