日本語要旨

準結晶は惑星の衝突で生き残れるか?

ロシア東部のチュコトカ州コリャーク山地で発見されたCV3炭素質コンドライトであるハティルカ隕石から,自然界で初めて準周期的な原子配列を持つ鉱物が発見された.後に,それらは二十面体石(Al63Cu24Fe13)および十角形石(Al71Ni24Fe5)と名付けられた.普通コンドライトには,隕石ショックステージがS6に分類される非常に強い衝撃を受けたものが知られており,それらが75 GPaの圧力を経験した証拠も見つかっている.そのため,衝撃を受けた隕石中での準結晶鉱物の安定性を理解するためには,75 GPa以上まで圧力範囲を拡張して調べることが必要である.そこで本研究では,ダイヤモンドアンビルセルを用いた準静水圧条件下で,二十面体石の圧縮挙動を,角度分散型粉末回折法によるその場測定で調べ,得られたデータを,KClを圧力媒体とした104 GPaまでのデータと比較した.実験の結果,両データは,個々のd-間隔が圧力とともに連続的に減少することを示しており,構造相転移やアモルファス化に関連した劇的な変化は見られなかった.d/d0d0は常圧でのd-間隔)は,一般的な等方性圧縮挙動を示した.ゼロ圧力体積弾性率とその圧力微分は,体積データをMurnaghanおよびBirch-Murnaghan状態方程式にフィッティングすることで求めた.本研究で得られた結果は,超高圧下での二十面体石の安定性に関する知見を広げるとともに,天然の準結晶が小惑星衝突時の衝撃現象で形成され,太陽系の歴史の中で長い間存続してきたという証拠を補強するものである.