開析谷の基底における起伏地形と礫層の形成:東京湾に面した低地下の最終氷期最盛期の例
- Keywords:
- Basal gravel bed (BG), Braided river, Scour, Cover effect, Sea-level change, AT tephra
礫質網状河川における基底面の流下方向の形状は,現世アナログでも礫層を貫いた調査例が少ないこともあり,不明な点が多い.その一方で,沖積層の基底礫層(Basal Gravel Bed: BG)を対象とした研究は,都市部における高密度のボーリング柱状図に基づいて,近年盛んに研究が行われている.その結果,BGの上下には最終氷期最盛期(Last Glacial Maximum: LGM)にかけて形成された起伏地形が存在することが明らかにされつつある.
本研究では,東京湾西岸の多摩川低地における4702本のボーリング柱状図から,BGの基底面を読み取ることによって,長さが1~2 km,幅が< 1 km,深さが5~10 mの凹地が,LGMの開析谷底に1~2 kmの間隔で連なっているのを発見した.このような凹地は網状河川の分流が合流する地点において形成されたと考えられる.多摩川低地では187 m×187 mのグリッド毎にボーリング柱状図が存在し,凹地の基底と縁から複数のボーリング柱状図が得られている.従って,このような地形は開析谷の形状を復元する際に用いた数学的な空間補間によるものではない.
多摩川低地下では,多摩川開析谷と鶴見川開析谷が合流しており,鶴見川開析谷において起伏地形が顕著で下刻量が大きい.このような2つの開析谷における起伏地形と下刻量の違いは,多摩川開析谷ではBGの被覆によって開析谷底の侵食が妨げられたことによってもたらされたと考えられる.
多摩川低地では,30.0 kaの姶良Tn火山灰(AT)を被覆する酸素同位体ステージ(Marine isotope stage: MIS)3の立川埋没段丘が,下流から上流にかけて,LGMの開析谷によって下刻されており,この事象は開析谷の基底を構成するBGが30 ka以降に形成されたことを示す.これは,BGが30 ka以降のLGMの低海水準期に形成されたとする,いわゆる「井関モデル」が多摩川低地には適応されることを意味する.