不完全な地震履歴を用いた地震時変位量のばらつき推定:中部日本,神城断層沿いに分布する河成段丘群を用いた例
- Keywords:
- Tectonic geomorphology, Earthquake variability, Coefficient of variation, Itoigawa–Shizuoka Tectonic Line, Kamishiro fault
過去の地震に伴う変位量が,地震ごとに,どの程度ばらついていたのかを明らかにすることは,過去の地震の規模を把握し,将来の地震ハザードをよりよく評価するために重要である.しかし,過去の地震の変位量を明らかにすることは容易ではなく,地震ごとの変位量のばらつきを調査する上で障害となっている.本研究では,地震履歴のデータが不十分な場合でも,地震ごとの変位量のばらつきをおおよそ推定するための手法を提案する.その例として,糸魚川-静岡構造線断層帯北部の神城断層の地震履歴を検討した結果を報告する.
まず,1940年代に撮影された空中写真と1mDEMを用いて神城断層沿いの河成段丘をマッピングし,それらの形成時期と,形成されてから段丘が受けた断層変位量を推定した.その結果と,過去に行われたトレンチ調査や歴史記録から推定される過去の地震発生年代をもとに,およそ300年前と1200年前に神城断層で起きた地震に伴う変位量が,それぞれ1.6mと3.4m程度だったことを明らかにした.神城断層で2014年に発生した地震の変位量は約1.2mであり,過去の地震は2014年に生じた地震よりも変位量が大きかったことが確かめられた.
1200年前より以前に発生した地震に伴う具体的な変位量は不明であるが,既存の地震履歴のデータから実際に発生しうる変位量を仮定し,モンテカルロ法によって,過去3000〜5000年間に発生した地震の変位量がどの程度ばらついていたのかを推定した.その結果,神城断層で過去に生じた地震の変位量には大きなばらつきがあった(変動係数0.3〜0.54)ことがわかった.また,同手法を詳細な地震履歴が明らかになっている断層に適用したところ,およそ86%の確率で,変動係数の推定誤差が0.15以内に収まることが明らかになった.これは,トレンチ調査から求めた変動係数の誤差と同程度である.以上の結果から,詳細な地震履歴が得られない場合においても,モンテカルロ法を用いれば,過去の地震時変位量のばらつきをおおよそ推定できることがわかった.