福島第一原子力発電所事故により放出された放射性Cs含有微粒子の関東および周辺地域への広域拡散
- Keywords:
- Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident, Radiocesium-bearing microparticle, Suspended particulate matter, Synchrotron radiation X-ray analysis, Trajectory analysis
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故により,膨大な量の放射性物質が環境中へと放出された。その一形態として,事故の初期段階に生成・放出された,比較的高濃度の放射性セシウム(Cs)を含む微小な粒子(以下,CsMP)が知られている。CsMPは,Cs以外にも炉内物質に由来する様々な元素を含み,ガラスを主成分とするため水に対して難溶である。本研究では,この粒子がいつ放出され,どのように拡散したのかを明らかにするため,大気汚染常時監視網として全国に設置されている浮遊粒子状物質(SPM)自動測定機のテープろ紙試料に着目した。この試料は,大気中のSPMを1時間単位で自動捕集したものであり,事故当時も多くの測定機が稼働していた。本研究では,3月15日の日中に首都圏を含む関東および周辺地域の計7地点で捕集されたテープろ紙試料から,8点のCsMPを分離することに成功した。いずれも直径1 μm程度の球形で,1粒子あたり137Csとして1 Bq弱の放射能を有していた。大型放射光施設SPring-8において,1粒子単位で詳細なX線分析を実施した結果,その化学組成や化学状態は,過去に報告されたCsMPのうち「Type A」と呼ばれるものとよく一致した。同様に,134Csと137Csの放射能比についても,Type AのCsMPとの対応が見られた。よって本研究から,原発から250 km以上離れた地域を含む関東および周辺において,Type AのCsMPが3月15日の日中の時点で飛散していたことが実証された。また,当時の気象データを利用した流跡線解析,さらに事故事象と対応付けた考察を行った結果,これらのCsMPは3月14日夜から15日未明にかけて原発2号機から放出された可能性が高いと結論づけられた。本研究で得られた知見は,事故による環境および生体への影響の実態を評価する上で,きわめて有益な情報になると期待される。