日本語要旨

日本沿岸への適用を目的とした高解像度領域海洋将来予測データセットの開発

本研究では,日本沿岸への適用を目的として,2種類の高解像度領域海洋モデルを用いた力学ダウンスケーリングによる海洋将来予測データセット(FORP)を作成した.1つは,黒潮や中規模渦を解像する水平解像度10 kmの北太平洋海域データセット(FORP-NP10),もう1つは,沿岸域をより詳細に表現する水平解像度2 kmの日本近海域データセット(FORP-JPN02)である.大気外力として第5次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP5)から2つの気候モデル(MIROC5およびMRI-CGCM3)によるhistorical実験および2つのRCP(representative concentration pathways: 代表的濃度経路)シナリオ実験(RCP2.6およびRCP8.5)の大気データを用い,10 kmでは複数シナリオでの1981~2100年連続積分データセット,2 kmでは10 kmデータから10または15年のタイムスライスした期間をいくつか選んでダウンスケーリングすることによるデータセットを作成した.本データセットの重要な特徴の1つとして,大気および海洋の再解析データに基づく比較参照データと仕様を共通化することにより,historical実験期間における現実との相互比較を行いやすくしている点があげられる.それらの参照データを用いて,海洋表層の水温および海流(黒潮・親潮)特性を対象にhistorical実験期間における現実からのバイアス評価や将来変化の解析を行い,日本周辺海域におけるデータセットの再現・予測性能に関わる基礎情報を得た.また,ダウンスケーリングによる沿岸での高解像度特性を生かした例として,日本海の海峡通過流,日本沿岸の水位変動特性,相模湾への黒潮貫入現象(いわゆる急潮現象)の3つの沿岸特性・現象における将来気候変動下での起こりうる変化について解析し,いずれにおいても黒潮が大きな影響を及ぼしていることが示唆された.このような黒潮と沿岸現象に関わる解析は,元々のCMIP5における低解像度データでは困難である.以上に示された特性により,本データセットは日本沿岸海域の気候変動適応研究に有用なデータセットということができる.