日本語要旨

琉球海溝から得られたタービダイトと半遠洋性泥のXRFコアスキャン、磁気特性、及び有機地球化学分析

琉球海溝の南西端は、台湾東沖の花蓮海底谷の末端に連結するため,台湾からフィリピン海に流れ込む堆積物の最終的な集積の場となっており、堆積物は主に海底谷を介して混濁流によって海溝に運ばれている.しかし,琉球海溝の堆積学研究は未着手であり,その実態は明らかにされてなかった.本研究では水深6,147mの琉球海溝底で採取したコアを解析した.このコアの主な岩相は、タービダイトと半遠洋性堆積物の水平な互層であった.

XRFコアスキャナー記録ではCaのピークはタービダイトと高い関連性を示した.岩相解析とXRFのCa/Fe比に基づいて36枚のタービダイト(厚さ0.9〜4.2 cm)を識別した. 1mm間隔の化学組成データを用いることで層厚約1〜3cmの極めて薄いタービダイトも半遠洋性泥と明確に区別できた.XRFのZr/Rbピークは、細粒砂サイズのタービダイトには対応するが,泥質タービダイトには対応しない. したがって、Zr/Rbピークは主に粒径を反映すると考えられた. これを確認するため,代表的なタービダイトの一つであるT25の詳細な粒径分析を行った.その結果,粒径はタービダイト基底から上方に粗粒化した後,細粒化し、Ca/FeとZr/Rbの変化と高い相関を示した.

超低温磁気測定結果では3枚のタービダイトから磁硫鉄鉱の信号が得られた.また,コア上部の半遠洋性泥にも磁硫鉄鉱が確認できた.磁硫鉄鉱は台湾起源の砕屑物の指標の一つであるので,過去数千年間に渡り,台湾からの堆積物の供給が高い時期があった可能性が示唆される.この磁硫鉄鉱を含むタービダイトは台湾-琉球海溝間の混濁流による遠距離輸送の証拠と考えられる.タービダイトと半遠洋性泥の有機地球化学分析結果では,半遠洋性泥はタービダイトに比べて全有機炭素と全窒素の含有量がやや高く,δ13C値も高いという特徴が認められた.本研究で用いたXRFによる化学組成分析と有機地球化学的分析を組み合わせた研究手法は,他の深海堆積物,特に炭酸カルシウム補償深度以深の堆積物の研究に有用であり,今後,広く用いられると期待される.