地球型惑星の強度モデルに基づいたリソスフェアの構造と進化の考察
- Keywords:
- Rheological structure, Lithosphere, Elastic thickness, Terrestrial planets
地球型惑星の内部構造やダイナミクスは,リソスフェアの力学的強度と密接に関わっている。とくに岩石中の水の存在は,レオロジー的な性質に強い影響を及ぼすことが,近年の実験的研究から報告されている。本レビュー論文では,最新のレオロジー構成則に基づいて地球型惑星の強度モデルを計算し,観測結果と照合することで惑星内部の構造,とくに水の存在について考察した。
いずれの地球型惑星においても,水の存在によって岩石強度は低下し,とくに粘土鉱物の存在は脆性強度を著しく低下させる特徴をもつ。レオロジーモデルに基づいてリソスフェアの弾性的厚さを計算したところ,水の存在下では弾性的厚さが著しく薄くなる特徴を示す。一方,脆性塑性境界の深さは,ウェットモデルでは浅部へシフトするのに対し,粘土鉱物の存在下ではドライな条件とほぼ同程度になる傾向を示した。また,塑性強度は物質によっても異なるため,地殻マントル境界での変形が塑性変形に支配される場合,レオロジーモデルは地殻の厚さや構成物質にも影響を受ける。このように,弾性的厚さや脆性塑性境界が水の存在や物質に対し異なるセンシティビティをもつため,重力異常や表層地形の変形構造から弾性的厚さや脆性塑性境界の深さが制約できれば,惑星内部での水の存在などにアクセスすることが可能である。例えば,火星の初期地形からは非常に薄い弾性的厚さと浅い脆性塑性境界が報告されており,火星内部での水の存在を示唆しているのかもしれない。今後,惑星内での物理探査が進むことで,リソスフェアのレオロジー的な性質と組み合わせて,地球型惑星内部での水の存在や進化の理解が進むことが期待される。