日本全国を対象とした高解像度の分布型降雨流出モデルによるアンサンブル洪水予測:2018年7月豪雨と2019年台風19号を対象にした事例研究
- Keywords:
- Ensemble forecasting, Flash floods, Rainfall-runoff-inundation model, Typhoon Hagibis, Uncertainty, Flood forecasting, Quantitative precipitation forecasting, Saturated subsurface flow, Distributed hydrological model, Meso-scale Ensemble Prediction System (MEPS)
2018年7月豪雨(西日本豪雨)と2019年令和元年台風(19号)は、それぞれ西日本と東日本の広域で甚大な洪水災害をもたらした。現行の洪水予測は、観測水位情報が得られる河道区間を対象に、3~6時間先の水位変化を予測する。また、多くの洪水予測システムは、流域単位で開発することが一般的である。しかし、今回立て続けに発生した二つの事例は、特定の流域にとどまらず、様々な河川で同時多発的に洪水が発生した。こうした災害に対しては、広域を俯瞰的に予測しつつ、観測情報の限られた中小河川も予測対象とする必要がある。他方、洪水予測にとって重要となる降雨の予測については、近年、気象庁がメソアンサンブル降水予測情報 (MEPS) の運用を開始した。これは、39時間先までを対象に、21メンバーのアンサンブル情報を提供するものであり、洪水予測にも応用が期待される。本研究は、RRIモデルと呼ばれる分布型の降雨流出氾濫モデルをもとに、日本全国を対象として空間解像度150 mの予測モデルを構築し、解析雨量とMEPSを入力して、長時間アンサンブルの洪水予測を検証した。
RRIモデルに解析雨量を入力した結果、同モデルのデフォルト設定で西日本各地の洪水流出を再現できたのに対し、関東地方の流域では同じ設定で洪水流出を過大推定した。RRIモデルのデフォルト設定は、土壌中の不飽和浸透の影響を考慮しない設定となっており、モデル上、降雨の大部分は飽和側方流として流出する。一方、火山性の土壌や地質に覆われた関東の実流域では、流域の土壌や基岩に貯留される雨水が多いため、その効果を反映することが流出の再現に不可欠であることが分かった。
次に、MEPSを入力した長時間の洪水予測について、台風19号の方が前線性の西日本豪雨よりも洪水予測の精度が高いことが分かった。台風19号の事例では、多くのダム流域で、アンサンブル予測の幅の中に実績流量(解析雨量による推定流量および観測流量)が入っていた。また、台風の接近に伴い、予測の幅が小さくなり、その精度が向上することを示した。これらの結果は、大型台風が襲来する際に、約24時間先を見越して、洪水の危険性を予見できる可能性を示唆しており、今後、こうした新たな洪水予測情報を活用した災害対応の取り組みが必要である。