物理的・生物地球化学的パラメータと累積炭素排出量に対する過渡的気候応答のシナリオ依存性の関係
- Keywords:
- Transient climate response to cumulative carbon emissions, Scenario dependence, Earth system models of intermediate complexity, Equilibrium climate sensitivity, Zero-emission commitment, Carbon budget
全球平均気温上昇と累積炭素排出量の比(TCRE)は,与えられた温度目標に対する残りの炭素排出可能量を推定する上で重要な量である.ここでTCREはシナリオ依存しないことが仮定されているが、実は弱いシナリオ依存性があり,厳しい温度目標の場合にはその違いが大きな意味を持ちうる.本研究では,大気中のCO2濃度(pCO2)が0.25%,0.5%,1%,2%,4%/年で漸増するシナリオと,1%/年で増加後に1%/年で減少するシナリオの下で,11の物理的・生物地球化学的パラメータを摂動させた簡略化地球システムモデル(EMIC)の512メンバーアンサンブルを用いて,TCREと各パラメータの相関およびそのシナリオ依存性を調べた.
1%/年と0.5%/年でpCO2が漸増するシナリオではTCREの平均値の差が小さかったが,その他のシナリオではその違いが明確になり,pCO2増加率が小さいシナリオやピーク後に減少する(オーバーシュート)シナリオではTCREの平均値が大きく,pCO2増加率が大きいシナリオではTCREの平均値が小さくなる傾向が見られた.また,平衡気候感度(ECS)とTCREのシナリオ依存性との間には強い相関が見られた.これはECSが大きい場合には気温上昇に時間がかかることが原因だと考えられる.TCREのシナリオ依存性を考慮すると,1.5℃目標達成のために今後許される炭素排出量は,pCO2増加が遅い(0.25%/年)シナリオを使用した場合、高TCREケースでは(67パーセンタイルの値を使用した場合.IPCCの1.5℃特別報告書(SR1.5)では33, 50, 67パーセンタイルの値が不確実幅として用いられた),1%/年シナリオのTCREを使用した場合と比べて17%(モデルの計算結果をそのまま用いた場合)もしくは22%(モデルで表現されていないフィードバックとして永久凍土の融解や湿地からのメタン排出の寄与の推定値(SR1.5の値を使用)を引いた場合)減少した.少なくとも単一EMICのアンサンブルを用いた場合について,高ECSケースでは残りの炭素排出可能量を推定する際にTCREのシナリオ依存性が無視できないことが示された.