日本語要旨

中期気候変動対策のためのアジアにおけるSLCP削減に向けての経験的アプローチ

中期未来に対する気候変動対策のために,二酸化炭素(CO2)の排出削減と同時に短寿命気候汚染物質(SLCP)を規制することの重要性については広く注目されているが, SLCPの放射強制力(RF)に対する寄与は複雑であり,化学気候モデルによる将来シナリオ解析では,個々のSLCP化学種の寄与に関しては「ブラックボックス」の結果を与えがちである.SLCPの削減による温暖化抑制効果について,政策担当者に対して,より分かり易いメッセージを届けるために,我々はメタン(CH4)と対流圏オゾン(O3)について,それらの過去の歴史的なRFを参照した「トップダウン」的な削減目標の設定を提案する.CO2は大気中の寿命が100年以上と長いため,当面非常に厳しい排出削減策を採ったとしても,2040年までの濃度増加にはほとんど影響がなく,この間にCO2によるRFは約0.80 W m-2増加する.これを補償するためCH4とO3の大気中濃度を2010年レベルから1980, 1970, 1960, 1950年レベルまで低下させることが出来れば,IPCC 2013の数値に基づくと,CH4によるRFの値をそれぞれ0.48 Wm−2 から0.41, 0.34, 0.27, 0.22 Wm−2へ,O3によるRFの値をそれぞれ0.40 Wm−2 から 0.29, 0.23, 0.19, 0.15 Wm−2へと減少させる事が出来る.従って,例えば,CH4とO3濃度をそれぞれ1970年レベルまで低下させたとすると,これらによるRFの低下は合計で0.31 Wm−2となりCO2によるRFの増加0.80 W m-2の約40%が補償される事になる.削減政策目標としてはCH4とO3のそれぞれに対し,異なる目標年の組み合わせから選ぶことが出来るが,ここでは1970レベルでのCH4とO3濃度に相当する排出量の達成に必要な全球におけるCH4,NOx, NMVOCの削減比をアジアに適用し,アジアにおける必要削減量を推定した.この値とUNE Asia Pacific Officeの下で作成された「Solution Report」で提言された,GAINSモデルに基づく費用・便益を考慮した2030年におけるアジアにおけるCH4,NOx, NMVOCの削減シナリオとの比較を行った.この比較からは,アジアにおいて必要な削減を達成するためには,CH4に関しては畜産からの放出削減に対する新しい技術/実践の開発が,また工場・発電所からのNOxの排出削減には,化石燃料から再生可能エネルギーへの燃料転換の促進が望まれることが示唆された.