熱帯太平洋中層水より得られた「ピコ」放散虫類の系統学的位置
- Keywords:
- 18S rDNA, phylogenetic tree, genetic distance, gametes, pico-sized spumellarians
海生プランクトンである放散虫ポリキスティナ類は,そのシリカ骨格の化石が時代的に連続して多産するため,地史の復元に決定的な役割を果たしてきた.一方で,それらの現在の海洋における多様性については未知の部分が多い.近年の環境DNAの研究により,孔径2μmのフィルター濾過水中から塩基配列として見出されたいわゆる「ピコ」放散虫が実際に存在するのか否かも謎の一つであった.そこで本研究では,中央赤道太平洋の70 mから1000 mの異なる水深から得られた海水を,異なるサイズの篩(孔径:42μm)および2種類のフィルター(孔径:5μmと0.2μm)で段階的に濾過することで得られた放散虫類および環境水中に含まれる18S rDNAおよびITS領域の塩基配列の比較を行った.その結果,ポリキスティナ類の一部を構成するスプメラリア類の塩基配列がサイズ42μm未満の画分と5μm未満の画分から得られた.これらの配列は,水深250 mと水深400 mのサンプルから得られたものであり,系統解析の結果,これらの配列は,いずれもアストロスファエラ科に対応するRAD-IIIクレードに含まれることが分かった.一方で,これらの配列が得られたものと同一の測点のサイズ42μm以上の画分からもスプメラリア類の放散虫個体が得られたが,それらはいずれもアストロスファエラ科の種ではなく,それらの塩基配列がいずれもRAD-IIIクレードに含まれないことも分かった.また,今回濾過水から得られたスプメラリア類の塩基配列間の遺伝距離は,同一種内もしくは近縁種間の範囲にあることも明らかとなった.このことは「ピコ」放散虫が通常サイズの放散虫の遊走子であるとする仮説と整合的である.この解釈をもとに,成熟個体と遊走子の海水中での異なる沈降スピードを仮定し,今回得られた観察事実を説明する「ピコ」放散虫の「遊走子モデル」を提唱する.