日本語要旨

堆積層の水理・力学的特性が海底地すべりの起因となる水膜形成に及ぼす影響

近年,海底地すべりの発生が様々な海域で報告されている。海底地すべりが発生すると,津波の発生や海底インフラの破壊を引き起こす可能性があり,大規模災害の要因になり得る。海底堆積物が不安定になるメカニズムとして,堆積層の境界における過剰間隙水圧の存在があげられる。Kokusho(2000)は海底地すべりの1つの発生要因として,液状化による水膜現象を提唱した。水膜現象とは地盤内に存在する低透水層の下部に過剰間隙水圧領域(水膜)が形成される現象である。また,Elger et al. (2018) はガスハイドレートが地中内部で水圧破砕を引き起こし,過圧流体が上方に移動することで海底地すべりを引き起こす可能性を示した。実際に海底地すべりが発生する地盤は未固結堆積物だけでなく,圧密・続成作用によって半固結もしくは固結した堆積物の可能性も考えられる。そのため,海底地すべりの発生メカニズムに海底地盤の固結の影響を考慮することが重要である。

本論文では2つの実験を通して,海底地すべりの発生要因の一つとされる間隙水圧の上昇に伴う,水膜形成時の堆積層の水理・力学的特性を調べた。1つ目の実験は,水膜形成が側方流動に及ぼす影響を把握するため,緩傾斜の地盤模型を作製して行った砂箱振動実験である。2つ目は,堆積層の固結により発生する層境界の引張強度が水膜形成に及ぼす影響を把握することを目的として,層境界の引張強度を変化させた人工試料を用いて行った堆積層境界の引張試験である。それらの結果をもとに,堆積層境界に水膜が形成する際の条件を,間隙水圧,透水性,引張強度,土被り圧,地殻応力の観点から検討した。