三畳紀後期ノーリアンの天体衝突イベントによる生物および地球環境の変化
- Keywords:
- Late Triassic, Norian, Bedded chert, Impact event, Environmental changes, Radiolaria
今から約2億1500万年前の後期三畳紀に起こった巨体天体衝突由来の堆積物(イジェクタ層)の層序記録は,中部日本の上部三畳系付加体中から報告されている.これまでの研究では,イジェクタ層を挟むノーリアン中期〜後期にかけての化石群集の検討から,天体衝突により放散虫の生産量が低下し,その低下は衝突後30万年間に渡り続いたことが明らかとなっている.しかし,天体衝突により当時の海洋環境がどのように変化し,放散虫の生産量低下を引き起こしたかについては分かっていなかった.
そこで本研究では,岐阜県坂祝地域の美濃帯上部三畳系ノーリアン層状チャートを対象として主要・微量元素組成分析を行い,天体衝突前後の環境変動について検討を行った.本研究の結果,天体衝突により,放散虫のみならず,基礎生産およびアパタイトの骨格を持つ生物(コノドントなど)の生産量も減少したことが明らかになった.岩石の化学風化に関連した地球化学的指標を用いた検討からは,衝突後に陸域の化学的風化作用が急激に増加したことが明らかになった.このことは,天体衝突後の短期間で温暖湿潤環境へ移行したことを示唆しており,放散虫生産量の持続的な減少もこのような環境変動を反映して起こった可能性がある.一方で海洋の酸化還元状態に鋭敏な元素の検討からは,天体衝突前後で海洋酸化還元状態の有意な変化は認められなかった.本研究の結果は,後期三畳紀の大規模な天体衝突イベント後にパンサラッサ海で進行した環境変化の記録を明らかにしたものであり,今後天体衝突と環境変動の関連性を議論する上で重要と考えられる.