日本語要旨

永久凍土融解による温室効果ガス放出量の将来予測:全球陸面モデルと簡易数値スキームによる推計

巨大な地下氷を含む永久凍土であるエドマ層が近年急速に融解していることが報告されている。この研究ではエドマ層を含む永久凍土層の融解による温室効果ガス(GHG)放出を記述するモデル(Permafrost Degradation and Greenhouse gases Emission Model, PDGEM)の開発を行い、将来の気候変動に伴うGHG放出量の推定を行った。モデル計算によると、現状の経済発展が続くRCP8.5 シナリオでの21世紀末における CO2とCH4 の放出量はそれぞれ 31-63 PgC, 1261-2821 TgCH4 (パラメータを変化させて計算した結果の68%幅)で、全球平均気温への寄与は0.05-0.11℃であった。この一方で、全球平均気温変化を産業革命前の2℃程度に安定化させるRCP2.6シナリオでは、CO2とCH4 放出量,気温寄与はそれぞれ14-28 PgC, 618-1341 TgCH4, 0.03-0.07℃であった。エドマ層融解の寄与は、面積割合が小さいために1%程度であった。我々の計算結果によると、どのようなシナリオでも21世紀末においても永久凍土は完全には融解せずに一部残ることが分かった。このため、永久凍土融解によるGHG放出は、21世紀末以降も継続して気候変化に影響を与えると考えられる。本研究のモデルPDGEMの優れた特徴は、詳細な物理過程を考慮した陸面過程モデルと、簡易な形式で表現したGHG放出モデルを組み合わせることにより、幅広くモデルパラメータの不確実性を考慮してGHG放出の地理分布を評価・予測できる点である(図)。永久凍土の融解によるGHG放出寄与が大きいと見込まれる場所において、土地開発を抑制するなどの対策を行うことにより、温室効果ガス放出を抑えることに貢献できるかもしれない。