日本語要旨

琉球列島南部水納島における過去約1000年間の古津波履歴

巨大津波来襲リスクが高いとされる琉球列島南部の宮古・八重山諸島において,精度の高いリスク評価を行うためには,古津波履歴を解明することが重要である.宮古・八重山諸島に分布する津波石の放射性炭素年代によると,1771年の明和津波をはじめとして,過去2400年間に150–400年間隔で津波が襲来したと推定されており,調査対象により再来間隔に差がある.また,八重山諸島に分布する砂質津波堆積物を用いた研究では過去2000年間で約600年の周期で津波が襲来したと推定されている.一方で,宮古諸島での砂質津波堆積物を用いた研究はあまり行われておらず,宮古・八重山諸島の古津波履歴の復元のためには宮古諸島での砂質津波堆積物を用いた研究が不可欠であると考えられる.

本研究では,宮古諸島の水納島(多良間村水納)において,1771年明和津波で堆積したサンゴ質津波石の直下で深さ115 cmのトレンチ調査を行った.そして,層厚48 cmと40 cmの2層の砂質イベント堆積物を発見し,各種分析により津波堆積物と認定した.2層のうち上位の津波堆積物層は津波石との層位関係から1771年明和津波によるものである可能性が高い.一方,下位の津波堆積物層はサンゴ片と二枚貝の放射性炭素年代値から700〜1000年前に襲来した津波によるものであると推定され,この年代値は八重山諸島における古津波履歴と調和的である.砂質津波堆積物の層厚と高度から,下位の津波堆積物を形成した津波も1771年明和津波と同規模の津波であった可能性が考えられる.

厚い津波堆積物が内陸まで分布していること,および水納島の表層地質は砂質堆積物を主体とすることから,巨大津波が過去数千年間にわたり600年程度の間隔で宮古諸島に襲来していたならば,津波による土砂堆積が水納島の形成に大きく関与していた可能性が考えられる.