プレート境界巨大地震における津波シナリオのためのランダム不均質断層すべり分布の生成
- Keywords:
- Nankai trough, Tsunami early warning, Scenario earthquakes
プレート沈み込み帯では巨大地震が繰り返し発生し、強震動および津波による被害が懸念される。本研究ではこのような巨大地震による津波ハザードを評価するためのシナリオ地震を生成する手法を構築した。地震時の滑り分布は津波の波高分布に大きく影響するが、将来の地震の滑り分布を正確に予測するのは困難である。そこで本研究では、あらかじめ与えられた確率分布(slip probability density function, SPDF)に基づき、シナリオ地震の震源断層上の滑り分布をランダムに生成する手法を構築した。本研究の手法で生成した滑り分布はシナリオ地震ごとに異なるが、生成した多数の滑り分布の平均はあらかじめ与えられたSPDFに収束する。さらに生成したシナリオ地震による津波を計算し、最大波高と到達時刻の多様性について評価を行った。この手法に基づき、本研究では南海トラフの東側を震源域とする想定東南海地震(Mw 8.2)に対してSPDFによるシナリオ地震のセットを生成し、津波の波高分布と到達時刻の滑り分布の違いによる変化を調べた。シナリオ地震を生成するためのSPDFとして、震源域での滑り分布の長期間の平均と考えられる、プレート境界での滑り遅れ速度に比例する分布を仮定した。各シナリオについて、震源域に面した南紀白浜から御前崎の沿岸における津波を計算した結果、滑り分布の違いによって津波の波高は3倍から9倍程度、到達時刻は地震後400秒から700秒の変化が見られた。津波波高と到達時刻のシナリオによる違いはどちらもガウス分布でよく近似できた。従って滑り分布が不明の場合は、平均と標準偏差を津波の予想と不確定性の評価に用いることが出来る。これまでの多くの津波想定で用いられてきた一様な滑り分布を仮定した場合、津波波高はほとんどのサイトで不均質滑りの場合と比べ過小評価となった。一方、到達時刻は多くのサイトで不均質滑りの場合よりも早かった。津波ハザードでは両者のうち早い到達時刻を使う事で、安全側の想定が得られる。したがって、津波ハザードの評価には、不均質滑り分布と均質滑り分布の両方を用いることが重要である。