日本語要旨

房総半島上総層群に認められる堆積システムの時空変化:更新世前弧海盆での深海成塊状砂岩の起源

テフラ鍵層の対比や酸素同位体比データ等に基づいた年代層序学の詳細な枠組みにより,沿岸域から深海域に至る広範囲の堆積システムの時空的発達過程の相互関係を高精度で解析することが可能である.このような枠組みは,相対的海水準変動に伴う粗粒砕屑物の陸棚外縁以深への活発な供給時期の解明を可能とする.���海成塊状砂岩 (Deep-water massive sandstones: DWMSs) の発達は,有機炭素の陸域から深海底への運搬や,石油天然ガスの良質な貯留岩の形成などと深く関わっているが,その成因は必ずしも明らかにされていない.本研究は,房総半島の更新統上総層群を構成する梅ヶ瀬層上部,国本層,ならびに長南層をケーススタディーとして,陸棚外縁以深への活発な粗粒砕屑物の供給プロセスと供給時期を高精度の年代層序学的枠組みに基づいて解析し,DWMSsの形成要因の解明を目指したものである.3層に挟在するDWMSsの形成において,氷河性海水準変動に大きく支配された相対的海水準の低下期−低海水準期での陸棚外縁三角州ないしはファンデルタの前進とこれに伴うハイパーピクナル流やデルタフロントの崩壊に誘発された高密度重力流の堆積プロセスが重要な役割を担っていたことが明らかとなった.一方,DWMSsを挟在する層準の低下期−低海水準期での形成時期には,同一層内ならびに3層間で違いが認められる.これは,相対的海水準の変動パターンの変化と粗粒砕屑物の供給システムの変動との相互作用の結果と解釈される.国本層には2層準にDWMSsの卓越が認められ,これらの層準間に発達した泥質堆積物にチバニアン階基底が認定されている.この基底層準は上部斜面で形成されたコンデンスセクションに認定されることから,堆積速度の低下と粗粒砕屑粒子の供給低下が,下部−中部更新統境界の国際境界模式断面とポイントの形成に重要な役割を担ったと解釈される.