日本語要旨

海洋炭素ポンプの分解とCMIP5地球システムモデルへの適用

海洋には大気の約60倍の炭素が含まれており、海洋の炭素循環は大気の二酸化炭素濃度を決める上で重要な役割を持つ。海洋の炭素循環を理解するために、海洋炭素ポンプという概念が広く使わ��ているが、必ずしも厳密な定義が共有されているわけではない。

本論文では、海洋中の全炭酸、アルカリ度、リン酸塩、塩分の3次元分布の情報から、4つの海洋炭素ポンプ(有機物ポンプ、炭酸塩ポンプ、ガス交換ポンプ、淡水フラックスポンプ)を定義する方法を提案する。これまで海洋炭素ポンプは深層における炭素濃度上昇への寄与という見方で記述されることが多かったが、本論文では大気とのガス交換が起こる表層の炭素濃度への寄与に着目した定式化を行った。

今回の定式化に基づき、全炭酸濃度、アルカリ度、リン酸塩、塩分についての全球観測データを利用して、4つの海洋炭素ポンプを計算し、それぞれのポンプの強さを診断した。4つの海洋炭素ポンプをベクトルとして表現した図(Vector diagram)にまとめることで、それらの大気二酸化炭素濃度への寄与を視覚化できることも確認した。

さらに、CMIP5モデルの結果にも今回の手法を適用し、各モデルにおける海洋炭素ポンプの強さを診断した。観測とモデルの結果を並べたVector diagramにより、観測とモデル、あるいはモデル間の海洋炭素ポンプの違いを明確に示すことができた。本論文の手法は、簡便な手続きで海洋炭素ポンプを診断することができ、またそれらの大気二酸化炭素濃度への寄与を定量化することが可能である。今後、海洋炭素ポンプの変化の定量化や、モデル結果の評価をするうえで有用な診断手法となることが期待される。