日本語要旨

高圧下でのウスタイトの音速:下部マントル底部の低速度異常への適用

ウスタイト(FeO)は地球内部に存在している重要な鉄酸化物の1つである。地球内部での鉱物の挙動を議論するためには、その環境を再現した高温高圧条件下での鉱物の物性を定量的に決定する必要がある。ウスタイトに関しては、その重要性にも関わらず、高温高圧下における音速データが不足していた。そこで本研究では、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビル高圧発生装置とX線非弾性散乱法を組み合わせることで、ウスタイトの音速測定を圧力112.3GPa、温度1700Kまでの条件下で実現し、音速-密度-圧力-温度の関係を明らかにした。下部マントルの主要な鉱物であるブリッジマナイトやフェロペリクレースと比較すると、得られたウスタイトの音速は有意に小さな値を示し、これは地球内部の化学的不均質性を解明するための重要な成果の1つである。

地震学的研究から下部マントル底部では地震波の超低速度域が分布していることが観測されている。この地震波異常は何らかの化学的不均質によってもたらされていると考えられているが、その候補の1つとして、本研究対象であるウスタイトの存在が挙げられる。下部マントル底部では、局所的にウスタイト成分に富む可能性が示唆されている。それは液体鉄合金である外核と下部マントルとの反応や、マグマオーシャンからの冷却過程に起因していると考えられている。そこで地震学的に観測されている超低速度域をウスタイトに富んだ下部マントルで再現することが可能かを検証した。その結果、縦波・横波速度を共に再現することができた。本研究結果は,下部マントル底部にウスタイト成分が富むことで地震波の低速度域が形成されるというモデルを強く支持しており,地球内部の不均質性の解明や内部構造の正確な描像に繋がる重要な研究成果である。