日本語要旨

係留ブイを利用したGNSS-A観測のための海中音速の時空間変化の推定

海底地殻変動を連続的にモニタリングするため、高知県足摺岬沖の係留ブイを利用し、観測システムを開発した。ブイには音響測距装置などの観測機器を搭載し、ブイの周りに3個の海底局を配置した。Global Navigation Satellite System-Acoustic (GNSS-A) 方式では、音響信号の走時とブイの座標などから海底局の位置を推定し、その長期的な変位量から海底地殻動を推定する。

黒潮流域では海水温度に勾配ができるため、音速の水平構造が不均質となり、海底局位置解析の主要な誤差原因になる。先行研究では、音速の水平構造に一定の勾配を仮定するモデルが提案され、測位誤差の低減効果が確認された。本論文では、このモデルを海底局位置解析に適用して得られた勾配の大きさや向きの推定結果を、海底局の周辺で音速を複数回測定して求めた構造と比較することで、モデルの妥当性を示した。

次に係留ブイによる観測データから海底地殻変動を検出するのに必要な条件を考察した。理論的にはブイが静止した状態で観測したデータからは、海底局の変位と音速の水平勾配を正しく分離することができない。そのため、ブイに要求される移動範囲を数値実験で求めたところ、1日あたり数十メートル以上であることが分かった。また、モデルの勾配層の厚みや深さの仮定が実際の音速構造と異なる場合には、モデル誤差が生じる。測距する位置が3個の海底局の重心に近いほど、モデル誤差を抑えられることが数値実験から分かった。さらに、ブイ観測システムには音速を測定する機能がないため、過去に測定した音速プロファイルを使用して解析する影響についても議論した。実際の音速構造が似ているプロファイルを選択した場合、ブイ―海底局間の測距誤差は最大で9.0 cmと見積られた。以上の検討から、開発した観測システムは、海底地殻変動をセンチメートル精度で検出するための条件を満たしているといえる。