地球温暖化下における南太平洋域での極端波浪の変化:サイクロン・トーマスに関する事例研究
- Keywords:
- Tropical cyclone, Climate change, Ocean waves, Numerical simulations, Ensemble simulation, Fiji
地球温暖化に伴う気候変化によって台風などの熱帯低気圧の強化が指摘されるなか,それらによって形成される風波も強さを増す可能性がある.本研究では,2010年にフィジーに甚大な被害をもたらしたサイクロン・トーマスを対象として,擬似温暖化手法とアンサンブルシミュレーション手法を組み合わせることによって,将来気候における南太平洋地域でのサイクロンと,それに伴う極端な高波の変化について調べた.気象シミュレーション及び波浪推算には,それぞれWeather Research and Forecasting (WRF)モデル及びWaveWatchⅢ(WW3)を用いた.温暖化シミュレーションの初期値及び境界条件は,高位参照シナリオ(RCP8.5)に基づく5つの異なる全球気候モデルによる温暖化予測結果を利用して作成した.5つのうち4つの将来気候シミュレーションにおいて,サイクロンの中心気圧が現在気候シミュレーションよりも低下する傾向がみられた.また,3つの将来気候において,フィジー本島周辺で風速が強まる傾向がみられた.他の2つの将来気候においては,サイクロンの経路のずれや発達の遅れにより,フィジー本島付近での風速が弱まった.WRFによるシミュレーションから得られた風向・風速を入力としたWW3による波浪推算では,3つの将来気候において,フィジー本島の南岸における最大有義波高に顕著な増加がみられた.他の1つの将来気候では,現在気候と同程度の最大有義波高となり,もう一つの将来気候では,最大有義波高のアンサンブル平均値は現在気候と同程度であったが,アンサンブルメンバーの中には現在気候における結果を大きく上回るものがみられた.複数の全球気候モデルによる温暖化予測結果を用いることで,サイクロンと風波の将来変化について様々な可能性が示された.複数の温暖化予測結果の利用とアンサンブルシミュレーションの組み合わせは,サイクロンと風波の将来変化に関する様々な可能性を示すものであり, 影響評価等における幅広い応用が期待される.