複雑地形上の強風ハザードの局所的評価における高分解能ダウンスケール実験の利点:2004年台風18号の事例解析
- Keywords:
- Dynamical downscaling, Strong wind, Typhoon hazard, Impact assessment, Mesoscale meteorological model
地域規模での気候予測情報は,地球温暖化の影響を考えるうえで必要不可欠なものである.特に,気象災害をもたらすような台風・豪雨など極端現象の場合の影響を考えるためには,時空間に詳細なハザード情報を領域気候モデルにより作成することが大事である.日本のように地形が複雑な場合,領域モデルによりハザードを定量的に評価するためには,地形の複雑さをモデルで精緻に表現することが必要であると考えられる.本研究では,水平格子間隔200 mでのダウンスケール実験により,2004年台風18号(Songda)の通過時を対象とし,複雑地形での地上風の表現性について調べた.解析対象とした地域は,台風通過により森林被害が生じた北海道山間部とした.200 m分解能計算を,格子間隔1 kmの場合のシミュレーション計算と比較して評価した.格子間隔200 mでのシミュレーションの場合には,1 km格子の場合に比べると,強風と弱風との両方の極値側がより強調されて表現され,かつ出現頻度もより高くなるという結果が明確に示された.解析対象領域における平均風速および最大風速は,200 m格子と1 km格子の双方の場合において,地形の傾斜の角度が大きくなるとともに,それらの風速値が増加することが示された.しかし,200 m格子の場合のほうが,平均風速や最大風速は,地形の斜度に応じて,より幅広い範囲で変化することが示された.このように,格子間隔が200 mと1 kmとで,地形に対する地上風の変化の具合は異なることが分かった.地形の複雑さによる地上風への影響を定量的に評価するため,サブ格子スケールの地形効果を表すパラメータを導入した.その結果,解析領域内の最大風速や風速変動幅は,サブ格子スケールの地形効果が大きくなる高分解能の場合に,より顕著になることが示された.これらの結果から,200 m格子という高分解能シミュレーションでは,地形がより精緻に表現されることによって,地上風が複雑地形でより大きく変動するように再現されることが示唆される.このように,数値シミュレーションにおいて地上風表現の利点が現れるのは,格子幅が100 m程度の高分解能になると複雑地形がより精緻に表現されることによる.このような高分解能化により,複雑地形での森林や植生に及ぼす強風の影響を定量的に評価することが可能となるのである.