地中海塩分危機の岩塩およびK–Mg塩の蒸発岩鉱物組成とバイオマーカー記録
- Keywords:
- Messinian Salinity Crisis, Evaporites, Kainite, μ-XRF, Biomarker
地中海塩分危機は,597~533万年前にかけて地中海海水の蒸発が進み,大規模な蒸発岩が形成された顕生代で最大級の地質イベントである.その最盛期には,岩塩(NaCl,海水が10倍以上濃縮されると析出)やK–Mg塩(海水が70倍以上濃縮されると析出)からなる巨大な蒸発岩が地中海の広域にわたり堆積した.地中海中央部のカルタニセッタ海盆に位置するイタリア・シチリア島のレアルモンテ岩塩鉱山は,地中海塩分危機最盛期の蒸発岩が陸上に露出する数少ない場所である.本研究では,岩塩鉱山の主要な堆積物である頁岩–硬石膏–岩塩互層,および最も蒸発が進んだ時期に堆積したK–Mg塩について,µ-XRFによる元素マッピングとGC/MSによるバイオマーカー分析を行い,堆積時の環境と生物組成の復元を試みた.頁岩–硬石膏–岩塩互層からはホパンおよびステランが検出された.カルタニセッタ海盆では,同互層が堆積した期間を通じて真核生物と細菌が生息していたと考えられる.K–Mg塩は,初生的な岩塩,二次的に形成されたレオナイト(K2Mg(SO4)2·4H2O),初生的もしくは二次的に形成されたカイナイト(MgSO4·KCl·3H2O)からなることがわかった.これらの蒸発岩鉱物は,岩塩を析出する表層水とK–Mg塩を析出する底層水の密度成層下で堆積したと考えられる.K–Mg塩からもホパンと極めて微量なステランが検出され,密度成層が形成されたことにより中海塩分危機において最も過酷な環境にあっても,真核生物や細菌が表層水中に生息可能であった可能性が示唆された.