日本語要旨

風に駆動される北太平洋西部亜寒帯域の海面高度と主密度躍層深度の10年規模変動

北太平洋亜寒帯循環には,複数の低気圧性の副循環が存在している.西部の副循環は,西部亜寒帯循環(WSAG)と呼ばれ,2000年代初めに大きく北に縮小した.このWSAGの縮小は,海面高度 (SSH) の上昇と主密度躍層(深度約150 m)の深化を伴い,海上の風応力の変化と相関がある.風応力の変化によって生じた擾乱は,ロスビー波として西方に伝搬すると考えられる.そこで,本研究では,WSAGの縮小の変動要因を調べるために,風成ロスビー波モデルを用いて,風応力の変化によって励起されたSSH擾乱とWSAGの縮小の関係を調べた.

まず,K2測点 (47˚N, 160˚E)周辺で取得した水温と塩分データに基づく海水密度の鉛直分布から変動の鉛直構造(傾圧モード)とその伝搬速度を計算し, さらに,鉛直一様な変動を持つ順圧モードの伝搬速度も計算した.次に,鉛直および水平渦粘性による減衰を考慮し,風によって励起される順圧ロスビー波および傾圧ロスビー波によって伝搬するSSHと海水密度の変動を計算した(なお,本研究では,伝搬速度と減衰特性の異なる擾乱を考慮するために,順圧モードに加え,傾圧モードは第1モードから第4モードまでを計算に用いた).

その結果,1990年後半から2000年代中頃のWSAGの縮小に伴うSSHの上昇と主密度躍層の深化が風成ロスビー波モデルで再現された.1990年代後半以降,偏西風の弱化とラ・ニーニャの頻発に起因するリューシャン低気圧の弱化によってエクマン・サクションが緩和される.SSHの上昇は,この風応力の変化への海洋の順圧ロスビー波応答が主な原因であることが分かった.また,WSAGの北への縮小には,43〜44˚N,170〜175˚Eに中心を持つ高気圧性循環の強化が伴うことも明らかになった.さらに,偏西風の弱化に対する傾圧ロスビー波応答は,西部亜寒帯域の主密度躍層を深化させる.そのK2に於ける大きさ(1.36 m/year)は,観測された塩分躍層の深化(1.79 m/year)と同程度であった.傾圧第1モード変動は伝搬中に著しく減衰するのに対し,高次モード(特に,傾圧第2モードと第3モード)による変動は準共鳴増幅機構により局所的に励起され,主密度躍層の上部深度に大きな影響を与える.