秋田県の鮮新統より産した腕足動物殻化石の化学組成・微細構造が被った陸水性続成作用の影響
- Keywords:
- Brachiopod, Carbon isotopes, Oxygen isotopes, Minor element concentration, Cathodoluminescence, Meteoric diagenesis, Terebratalia coreanica, Laqueus rubellus, Pliocene, Japan
腕足動物化石の殻の安定炭素・酸素同位体組成(δ13C・δ18O値)は,それらが最も繁栄した古生代を中心として,古環境復元研究に広く用いられてきた.しかしながら,殻の同位体組成は,埋没後の続成作用によって改変されてしまっている可能性がある.本研究では,陸水性続成作用による殻の微細構造・化学組成の改変の度合いを定量的に評価するため,秋田県峰浜に分布する鮮新統天徳寺層上部(3.85–2.75 Ma)の砂質礫岩より採取した2種の腕足動物化石(Terebratalia coreanica,Laqueus rubellus)および両種の現生試料(それぞれ,岩手県大槌湾,神奈川県相模湾で採取)を用いて,微細構造,カソードルミネッセンス(CL)像,δ13C・δ18O値,微量金属元素(Mn,Fe,Sr)含有量を比較した.殻の微細構造の被破壊率は,観察区画内における,殻を構成する方解石繊維に変質が認められる部分の割合(面積比)として定義した(altered fiber ratio(AFR)).また,殻表面に対して垂直方向に配置する直径10 µm未満の小孔(punctae)はセメントで充填されている場合が多いため,観察区画内で変質方解石繊維とセメントで充填されたpunctaeが締める割合をaltered fiber and puncta-filling cement ratio(AF-PCR)と定義した.さらに,CL像における発光強度は, CL像をRGBカラースケールで表し,そのR値の平均(Mean CL intensity(MCLI))として定量化した.その結果,δ13C・δ18O値はAFR(またはAF-PCR),MCLIと負の相関を示し,MnおよびFe含有量とも負の相関を示した.なお,Mn含有量とδ13C・δ18O値は,Fe含有量とδ13C・δ18O値より,強い相関を示した.よって,本研究で扱った腕足動物化石殻の場合,Mn含有量が陸水性続成作用を被っている部位を特定するために最も有効な指標と結論される.一方,化石殻のSr含有量は現生殻と同程度であり,本研究では変質した殻部位を特定するためには有効ではなかった.従来,腕足動物殻に対する続成作用の影響は定性的に判断され,研究者間で判断が一致しないこともあった.しかし,本研究で開発された定量的な指標を導入することにより,厳密かつ共通した判断が可能になると期待される.