日本の海岸堆積物における石英粒子の表面形態の解析と後背地推定の試み
- Keywords:
- Quartz microtextural analysis, Provenance research, SEM, Inclusion, Grain roundness, Coastal sand
堆積物中の石英粒子は風化に強く保存性が高いため、粒子の表面には粒子の母岩・運搬過程および堆積環境を反映した微細な形態が残されている。この特徴を利用した石英粒子の表面形態解析は、後背地推定に利用されてきた。本研究では日本の海岸堆積物に着目し、石英粒子の形態の多様性を明らかにし、形態的特徴と堆積環境の関係を検証することを目標とした。後浜から採取した海岸堆積物について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて15種類の表面形態の特徴を観察し、各形態的特徴を有する粒子の割合を「形態の出現頻度」として算出した。観察した石英粒子の形状は、粒子全体を撮影したSEM画像を用い、画像解析により粒子の丸さを算出して評価した。石英粒子の表面には、先行研究で報告されている多種類の形態が観察されたが、化学的作用により形成された形態と比べ、機械的作用により形成された形態が多く観察され、粒子は水中で高いエネルギー環境下にあることが示唆された。試料間で出現頻度に大きな差が見られた表面形態は、粒子と粒子が衝突して形成される衝突痕と、包有物に由来する微細な孔であった。衝突痕の出現頻度は海岸堆積物が河川由来か否かに関係し、微細な孔の出現頻度は試料の母岩の違いを反映していると考えられた。石英粒子の表面形態解析による結果は、石英粒子の丸さ、試料の粒度および含有する鉱物の種類から推定される後背地と矛盾しない結果を示した。日本のように地形や地質の複雑な地域においても、石英粒子の形態には上述した多様性が見られ、運搬過程や堆積環境の推定に有用であることが示唆された。今後本手法を日本国内の土に適用するにあたっては、未風化の石英粒子の形態と母岩との関係を明らかにする必要があると考えられた。