日本語要旨

数値シミュレーションを用いた付加体における熱熟成度の構造

本研究では数値シミュレーションを用いて、付加体が形成される過程における堆積物の被熱履歴に基づいて、付加体中の熱熟成度の構造について研究した。本研究では付加体を構成する粒子が、付加体中で受ける温度とその継続期間によって獲得する熱熟成度を、ビトリナイト反射率で表現した。本研究から、沈み込む前の堆積物の埋没深度が同じであっても、付加体に取り込まれる際に異なる埋没経路をたどることで被熱履歴が異なり、熱熟成度が変化することが明らかになった。このことから、本研究では付加体の成長過程で、堆積物がたどる経路として2つのエンドメンバーとして、浅部を移動し低い熱熟成を受ける“浅部経路”と、深部を移動し高い熱熟成を受ける“深部経路”を提示した。また、断層形成のような地質学的な変形イベントによって、熱熟成構造に不連続が生じることが知られている。本研究から、付加体の先端で断層が形成される際に生じた熱熟成構造の小規模な不連続は、浅部経路をたどると保存されることが確認された。しかし、堆積物が深部経路をたどると、より高温を経験することで、小規模な不連続は上書きをされて消えてしまうことを明らかにした。さらに、序列外スラスト(Out-of-sequence thrust)の様に大変位を伴う断層活動では、熱熟成構造の大規模な不連続を生じることを示した。