深層学習を用いた雲解像全球非静力学モデルによるシミュレーショデータ中の熱帯低気圧および予兆の検出
- Keywords:
- Tropical cyclogenesis, Cloud resolving atmospheric model, Deep learning, Convolutional neural network
近年、多層化されたニューラルネットワークを用いた機械学習の一手法である深層学習(ディープラーニング)が、画像認識や音声認識、自然言語認識などの様々な分野において活用され、様々な分野において注目を浴びている。本研究では、画像認識に特化した深層学習モデルである畳み込みニューラルネットワークを用い、雲解像全球非静力学モデルNICAMによる20年分の気候実験データから検出した熱帯低気圧およびその予兆の雲画像(外向き長波放射)50,000枚と、それ以外の雲画像500,000万枚の学習を行った。さらに、学習によって生成された2クラス分類を行う識別器を10台並列に組み合わせ、予測結果のばらつきの確率的な制御を実現するアンサンブル識別器を構築した。
構築されたアンサンブル識別器を未学習のデータ10年分に適用し、熱帯低気圧および予兆の検出性能を、海域、季節およびリードタイム毎に分析した。その結果、特に7月から11月の台風シーズンの北西太平洋では、対象とするデータ中に存在する熱帯低気圧および予兆のうち、どの程度を正しく検出できたかを示す捕捉率(POD: Probability of detection)が79.9-89.1%であった。また、熱帯低気圧または予兆であると予測した結果が、どの程度間違いであったかを示す空振り率(FAR: False alarm ratio)は、32.8-53.4%という結果となった。検出結果には、発生2日前、5日前および7日前の熱帯低気圧の予兆のうち、91.2%、77.8%および74.8%が含まれていた。
検出性能の平均値は海域によって異なり、北西太平洋で最も高く、北インド洋で最も低いという結果が得られたが、それは学習データの数や熱帯低気圧の寿命と強い正の相関があることが分かった。一方、他の海域と比べて相対的に学習データの数が少なく熱帯低気圧の寿命も短い北大西洋では、捕捉率が70%以上かつ空振り率が50%以下という、比較的高い検出性能が得られた。これは、他の海域のデータの学習がこの海域における検出に良い影響を与えていると考えられる。
本研究の成果はシミュレーションデータのみを用いて得られたものであり、そのまま観測データにおいても同様の結果が得られるというわけではない。学習に観測データを用いることによって、現実の熱帯低気圧の予兆検出にも適用することを目指している。