日本語要旨

福島県津島地区及び川俣地区の汚染地域における大気中134,137Csの季節的変化および再飛散に関わるエアロゾルについて

福島第一原子力発電所事故で放出され土壌や植生へ沈着した放射性物質は,現在も一部が再飛散プロセスにより大気中に浮遊している.

再飛散は風による汚染土埃の舞い上がり,森林火災,生物活動など様々な要因で発生するが,福島汚染地域での主要なプロセスはよくわかっていない.

本研究では,福島の汚染地域内4地点での大気中134,137Cs放射能濃度連続観測,走査型電子顕微鏡(SEM)観察及び森林火災指標となるレボグルコサン分析等から,放射性セシウムの再飛散プロセスと,担体となるエアロゾルについて考察した.

大気放射能濃度の季節変化は全地点で類似し,冬から早春にかけ低濃度,晩春(5月)および晩夏から早秋(8-9月)に2つの極大をもつ高濃度を示し,秋から冬にかけ減少した.この季節変化は過去の都市域での観測結果と異なる.早春の極大時に濃度は風速と正相関し,夏から秋には気温と類似した変化を示すが風速との関係はなかった.

再飛散の空間スケールを,近傍(距離約1km)に位置するが表面汚染度が異なる2地点での大気放射能濃度値の違いから評価した.冬から晩春には濃度の違いが大きく,この時期には飛散は局所的に発生もしくは輸送距離が小さいと推定される.これに対し,夏から秋では違いが小さく,飛散は広域で発生もしくは輸送距離が大きく均一化していると推定される.この結果は担体エアロゾルが季節で異なるためと考えられる.

エアロゾルをSEMで観察した結果,夏と秋には花粉や胞子,その他微生物などバイオエアロゾルが主要な担体粒子である可能性が高く,福島県山間部汚染地区では,生物活動による再飛散が支配的であると示唆された.一方,冬と春は土壌や鉱物,枯れた植物片が主要粒子であり,風との相関から,鉱物等のダスト粒子が担体であると推定した.また、レボグルコサン濃度と大気放射能濃度との関係は見られず,森林火災は重要な再飛散要因ではなかった.

本研究は,福島県山間部高汚染地区ではバイオエアロゾルの再飛散への重要性を示唆するものである.今後バイオエアロゾルに関する研究を進め,再飛散プロセスの解明と,フラックスの定量評価を行うことが重要である.