日本語要旨

ロケット噴射に起因する電離圏プラズマの欠乏領域に発生した昼間の低緯度F領域不規則構造

低緯度における電離圏F領域では、プラズマバブルとよばれる電子密度が局所的に減少する現象が起こり、その内部においてプラズマ密度の不規則構造が発生するが、この現象は夜間にのみ発生し、昼間には発生しないことが知られている。本研究では、中国南部に設置されたVHF帯のレーダーを用い、ロケットが電離圏を通過した直後に、昼間においてもプラズマ密度の不規則構造を観測した。この時、不規則構造は、最初、F領域最大電子密度高度である高度約350km付近に、東西方向に約200kmの広がりをもち、高度方向には約30km程度の薄い層状に現れ、その後、高度方向に拡大し、高度約500kmに達した。このように高度方向に不規則構造が成長する特徴は、夜間に出現するプラズマバブル内部に発生する不規則構造の特徴と類似している。汎地球測位測位システム(GNSS)を用い、人工衛星から送信された電波が地上に設置された受信機まで伝搬する経路に沿ったプラズマ密度の積分量(全電子数)を調べたところ、ロケットが電離圏を通過した直後に全電子数の顕著な減少が起こっていることが明らかになった。また、レーダーで観測された不規則構造は、この全電子数の減少が起こり始めて数分後に発生していることも明らかになった。これらの結果に基づき、ロケットからの噴射によって電離圏プラズマの再結合が進んだためにプラズマの欠乏領域がつくられ、その内部でプラズマ不安定が起こり、電離圏不規則構造が生成された、と推測される。また、夜間に発生するプラズマバブルと同様、プラズマ不安定の一種であるレーリー・テーラー不安定により、プラズマ密度の欠乏領域が高高度に持ち上げられたため、電離圏不規則構造の領域が高高度に拡大したと考えられる。