2012年12月に観測船白鳳丸でのラジオゾンデ観測によりフィリピン海上で捉えられたコールドサージイベント
- Keywords:
- Cold surge, Air-sea interaction, Air mass transformation, Hakuho-maru, Philippine Sea, VPREX2012, AMY2007-2012
2012年12月、観測船白鳳丸で行ったラジオゾンデ観測により、陸から遠く離れたフィリピン海上でのコールドサージに伴う大気海洋相互作用を捉えることに成功した。海面から大気への熱エネルギー輸送を評価し、その結果を東シナ海で行われたAMTEX '74で得られた輸送量と比較した。コールドサージによる強い寒気および乾気の水平移流が 850 hPa より下の高度域で卓越していた。この強い水平移流にも関わらず、その場の気温と湿度の時間変化はわずかであった。これは水平移流が海面からの熱と水蒸気の供給とほぼバランスしていたからであった。この結果はAMTEX '74のコールドサージ卓越期と定性的には同じものである。海面から大気への全熱エネルギー渦輸送は 410 W/m2 と見積もられた。これは AMTEX '74のコールドサージ卓越期の平均値(およそ510 W/m2)と同程度であり、また同時期の最大値(およそ780 W/m2)のおよそ半分である。つまり、陸から離れたフィリピン海上で海面から大気に供給される熱は、大陸からの吹き出し直後に匹敵する量であった。
水平移流により寒気および乾気が下層に流入するということは、その場の気温と湿度を下げるように、つまり対流不安定性を下げるように働く。しかし、この効果は海面からの熱と水蒸気の渦輸送によりキャンセルされる。結果として、対流不安定性はコールドサージがあっても維持されることとなる。この対流不安定性の維持機構は、コールドサージのさらに下流域のフィリピン東岸沿いに発達した対流の活発化にも寄与したと考えられる。本研究ではまた、コールドサージによる北東風と西進する低気圧性擾乱のカップリングがフィリピン沿岸部の対流活発域に向かう流れの収束を強めたことを示した。このタイプのカップリングは秋季のインドシナ半島東岸における激しい降水をもたらすメカニズムとして知られているが、同様の降水発達メカニズムがフィリピン沖でも働いていることを示した点はこの研究の重要なポイントである。