日本語要旨

テクトニクスと侵食速度の関係の全球的評価

近年、侵食速度に関する研究が行われているが、その主な目的の一つは侵食速度の規定要因の解明であり、これは地形の発達過程などを検討する際に重要である。従来、侵食速度の規定要因として、気候、流域の地形量、テクトニクスといった多様な要因が想定されてきた。本研究ではテクトニクスに注目した侵食速度の検討を行う。本研究で用いた侵食速度のデータは、主に既存研究で報告されているベリリウム同位体を用いて推定されたものと、合衆国地質調査所がまとめた土砂流出量に基づくものである。これらデータと、プレート境界への距離、表面最大加速度(PGA)、断層の分布というテクトニクスに関する要素、および流域の平均傾斜との関係を調べた。その結果、侵食速度はプレート境界への距離、PGA、および傾斜と有意な相関を持つことが判明した。次に、個々のパラメータの値を高・中・低の3段階に区分し、複数のパラメータに関する段階の組み合わせによって侵食速度の計測地点をグルーピングした。その結果、PGAが高いがプレート境界から大きく離れた地点や、PGAが低いがプレート境界に近い地点はほとんどないことが判明し、プレート境界からの距離という簡便な指標がPGAを含むテクトニクスの活発さを反映することが示唆された。侵食速度が低いグループは、少なくともプレート境界からの距離が大きいかPGAが低いが、侵食速度が高いグループにはその傾向がみられない。これらはテクトニクスが侵食速度を規定する主要な要素であることを示し、その一因は地殻変動によって生じる急勾配の地形と考えられる。しかし、流域の平均傾斜を傾斜の指標として用いた場合には、流域の中の複雑な傾斜の分布を十分に反映していないため、傾斜と侵食速度の対応がやや不明確になる。