オンゲルック火山岩類の弱い熱水炭酸塩化作用: 前期原生代全球凍結時の低かった大気海洋二酸化炭素濃度
- Keywords:
- Paleoproterozoic global glaciation, Ongeluk volcanics, Carbonation, Carbon and oxygen isotopes, Seawater/atmosphere CO2 level
熱水変質作用に伴って海洋底玄武岩中に固定された炭酸塩鉱物の含有量の経年変化から,後期太古代に海水中全炭酸濃度が減少したことがこれまでに示唆されている.そこで本研究では,その後の海水中全炭酸濃度の経年変化を明らかにするために,地球史を通じて最初の全球凍結イベントが記録されている前期原生代に着目した.南アフリカ,カープバールクラトンには,24億年前の全球凍結時に海底に噴出した火山岩(玄武岩質安山岩)からなるオンゲルック累層が露出している.ほとんどの火山岩試料は炭酸塩鉱物を含んでいないが,稀に方解石を含んでいる試料が存在し,その炭素安定同位体比(δ13C vs. VPDB)は−31.9‰から−13.2‰という値を示す.この比較的低いδ13C値は,オンゲルック火山岩の炭酸塩化作用に有機物分解起源の二酸化炭素が部分的に関与していたことを示している.また,−13.2‰よりも高いδ13C値が見られなかったことは,前期原生代全球凍結時に海水中二酸化炭素のδ13C値が低かったとする先行研究と調和的であり,炭酸塩化作用が溶岩の噴出直後の海底熱水循環中に起きたことを示唆している.これまでに,32億年前から26億年前の間に海洋底玄武岩の炭酸塩鉱物含有量が減少したことが報告されており,この時期に海水中全炭酸濃度が減少したことが示唆されている.しかしながら,オンゲルック火山岩中の炭酸塩鉱物としての二酸化炭素含有量(<0.001 wt%)は26億年前の海洋底玄武岩や顕生代の海底掘削コアの値よりも遥かに低い.このことは,海水中全炭酸濃度が26億年前から24億年前にかけてさらに減少し,前期原生代全球凍結時には海水中全炭酸濃度が非常に低くなったことを示唆している.また,海洋底玄武岩中の炭酸塩鉱物含有量が,それとは独立に推定された大気二酸化炭素分圧と地球史を通じて良い相関を示すことを考慮すると,オンゲルック火山岩中の低い炭酸塩鉱物含有量は当時の大気二酸化炭素分圧が低かったことを反映していると考えられる.したがって,32億年前から続いた大気海洋二酸化炭素濃度の減少が,前期原生代全球凍結イベントを引き起こした要因の一つだった可能性がある.